建設業界はかつてない人手不足の状況が続いている。
1990年代のバブル崩壊、2008年のリーマンショックで、民間だけでなく公共工事も激減。ゼネコン各社は、長らく過剰人員を抱えてきた。しかし、12年に安倍政権が誕生し、国土強靭化などの経済政策の恩恵もあり、建設業界に追い風が吹く。業界では「潮目は変わった」(大手ゼネコン幹部)という声が多い。
「東北復興需要に加え、20年の東京オリンピック誘致決定で、関連のインフラ整備が動き出す。今後5~6年は好環境が続く」(建設業界アナリスト)。かつては一つの案件に7~8社も参加し赤字受注覚悟の入札競争が展開された時期もあったが、最近は受注環境が一変、「案件は豊富にあり、採算を重視した受注ができる」(同)。
こうした中、業界が頭を悩ませているのが、人手不足と資材高だ。特に、現場の人手不足は深刻で、労務費高に直結している。国土交通省の建設労働需給調査によると、東日本大震災があった11年ごろからタイトになり、13年後半から逼迫してきた。職種で見ると、建設、土木とも型枠工の不足が目立つ。とび工、左官も不足が常態化している。
さらに、建築や土木の現場では最低1名は必要とされる1級建築(土木)施工管理技士(国家資格)も不足。大手ゼネコンだけでなく、東京都など地方自治体もキャリア(経験者)の中途採用を拡大するなど、対応を急いでいる。
そもそも20年ほど続いた冬の時代には、新卒採用を抑制してきた建設業界。大学の建築学科や土木工学科を卒業した学生は、まず国家公務員、次に地方公務員を志望。建設現場できつい仕事を行うイメージが強いゼネコンは避けられ、金融機関に就職する学生もいた。
この結果、現場で働く技能労働者や技術者、施工管理技士は減少かつ高齢化。団塊世代が定年退職を迎えた後は、特に深刻な人手不足が起こっている。「東京都や神奈川、埼玉など自治体の中途採用は59歳まで受験資格があるから、ベテラン技術者が転職していく可能性もある」(中堅ゼネコン幹部)と危惧する。
ゼネコンは工事請負業、地方自治体は発注者側。その立場の違いは歴然だ。「現場の検査で発注者側からいろいろ厳しい注文をつけられた経験を持つ現場の責任者が、一度は発注者側になってみたいと思って、自治体の中途採用に応募する例も見られる」(ある土木施工管理技士)。
東京都は中途採用を毎年行っているが、土木系を中心に建設関係の技術者採用を増やしている(上段・右下表)。「特に若い世代が多いわけでなく、不足している年代の人員を補う形で採用しており、30代、40代だけでなく、50代も採用している」(東京都人事委員会・田中賢也試験課長)。たとえ59歳で採用されても、公務員なら希望すれば65歳まで再任用される。
さらに東京都では技術系の新卒採用試験の内容において14年度から一部で新方式を導入する。これまでの専門試験・論文を廃止、新たにプレゼンテーションシート作成を課し、2次試験でプレゼン・面接を行う。国家公務員と同じ試験内容では、二つとも合格すると「霞が関」のほうに取られてしまう。そこで「試験対策不要」と銘打った新採用試験を導入することになった。
積極的な大成建設
大手ゼネコンの中でも中途採用に積極的なのが、大成建設だ。新卒採用も増やしているが、戦力化するまでに4~5年はかかる。目先の仕事をより多く受注していくには、どうしても人材が必要だ。そこでキャリア採用を、13年度の95人に続き14年度は110人に拡大した(上図)。
大成建設は現在の国立競技場の元請け工事を担当したことで知られているが、20年の東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場の受注にも前向きだ。シンボリックな建物だけでなく、好環境の中で受注を拡大していくためにも人材確保に意欲的だ。
一方、鹿島など一部ゼネコンは、人員を増やすことに対して慎重姿勢を崩していない。中堅ゼネコンの多くも「東京オリンピック開催の1年前ぐらいには工事案件は減っていくだろう。東北の復興需要も一巡していくことを考えれば、人員を増やすことより、現在の仕事をより効率的に消化していくことが重要。人員面では協力会社やOB(定年後の再雇用)活用で乗り切っていく」(中堅ゼネコン幹部)。かつての経営危機や人員整理がトラウマのようになっており、今ある人員でやれるだけの受注しか取らないという姿勢だ。
人手不足への対応はさまざま。現在の好況をどう考え、将来をどう予測するかによって、数年後には大きな実力差がつくかもしれない。
(出典:週刊東洋経済2014年3月29日号)